「言葉は山を登る」 / Cyg art gallery 2022/11/12(土)〜12/7(水)

展示概要

2022/11/12から、岩手県盛岡市にて写真展を開催します。

近年、龍神信仰や先祖の来歴を確かめるために何度か歩いていた東北の地で展示をする機会をいただきました。

札幌にある真駒内川から始まった取り組みが東北の地に辿り着きました。

色々な方に協力していただいたことで、この展示をきっかけに盛岡から北海道までの線がつながりました。偶然の重なりで見出すことができて驚きました。

北海道の龍神信仰と雨乞い習俗を中心とするシリーズ「水が立つ」に加えて、山神の姿を見出そうとした「山が見ている」、一連の撮影のきっかけとなった「光景」も合わせて展示します。

展示のタイトル「言葉は山を登る」は亡くなった先祖が山に登るという、日本人の素朴な民間信仰を背景にして、目の前に広がる世界と私から始まる世界のあり様を写真を通じて確かめる試みです。

東北の作家に焦点を当てた企画ギャラリーであるCyg art galleryは盛岡の中心部、盛岡城の足元にある、ショップも併設されたキャパシティもあり人も文化も豊かな場所です。担当ギャラリスト・キュレーターの佐藤さんと共に良い展示となるよう試行錯誤しながら進めています。

展示初日、11/12(土)と、展示の終盤の12/3(土)にはギャラリートークも予定しています。

お近くの方はぜひ足をお運びいただけると幸いです。

展示詳細

「言葉は山を登る」

Cyg art gallery (シグアートギャラリー)
(〒020-0024 岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルクアベニュー・カワトク cube-Ⅱ B1F)

2022年11月12日(土)ー12月7日(水)
10:00–19:00

言葉は山を登る - Cyg art gallery | 東北の作家に焦点を当てた企画展ギャラリー
展示する作家や作品を厳選し、さらにその作家とともに展覧会をつくりだすことで、より楽しんでいただける展覧会をお客様に提供します。

アクセス

Cyg art gallery (シグアートギャラリー)
(〒020-0024 岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルクアベニュー・カワトク cube-Ⅱ B1F)

展示に寄せて

 札幌市南区を流れる真駒内川の緑地に龍神観音像が祀られている。それをきっかけに北海道の龍神信仰について調べ始めた。航海安全や大漁祈願、豊作、穏やかな暮らしへの願いを龍神に込めて、道内各地で山河を舞台に祈りが捧げられていた。
 北海道では明治以降アイヌの人々が暮らしていた土地をいくつも奪いながら、日本各地から多くの和人(大和民族)が流入した。人とともに文化や信仰も道内各地に持ち込まれていった。アイヌの人々の信仰や民話、聖地とも交わりながら、開拓の依り代として出身地から御神体を分祀したり、漁業の網にかかった石を崇めたり、あるいは稲作や畑作用の用水路の守り神として、信仰心のある人々が祈願する営みがあった。その数は二百を超え、特に青森や山形など東北地方と関わるものが多く目についた。

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 子どもの頃、数えきれないほど父と東山を歩いた。そこは元々生家があった場所に近く、父にとっては今思えば庭を歩くような行為だったのだろう。東山の一角の、今は藪に覆われた父の生家があった土地に八重桜が植えられていた。父はそれを株分けして自分の土地に植えた。八重桜は祖父が生まれ故郷の仙台のお屋敷から持ってきたものだった。若林区にあった祖父の生家の土地は、今やビルの一部となって跡形もないという。
 東日本大震災で仙台の被害の様子が繰り返し報道された。被災地への興味を正当化するために、自らの来歴を足がかりにした。それ以来、龍神信仰を調べることと並行して、仙台から北海道に来た先祖の歩みを少しずつ確かめた。
 北海道伊達市の小川沿いの土地に、父は自ら家を作った。茶の間の窓からは東山が見える。敷地に植えた八重桜は土地に馴染み、ひこばえが育ち、子孫を増やした。若い株を数年前に実家から分けてもらい、猫の額ほどの広さの、札幌の自宅の庭に植えた。いつの間にか2階にも届くほどの高さになった。春には淡いピンクの八重桜の花が庭いっぱいに咲いた。

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 青森県と秋田県にまたがる十和田湖の半島の一つ、中山半島に十和田神社が鎮座している。青龍権現が祀られている十和田神社の縁起には二つの説がある。その一つに関わるのが熊野で修行した南祖坊(なんそのぼう)である。十和田湖の主であった竜の姿をした八郎太郎との争いを制した南祖坊は、自らも竜となって十和田湖に入水し、やがて青龍権現として祀られた。十和田の龍神信仰はこれに由来するという。
 八郎太郎は青森出身のマタギであった。ある時、掟を破って仲間の分のイワナまで一人で食べてしまった。すると激しい喉の渇きに苦しみ、川の水を飲んで癒そうとしたが竜の姿に変わり十和田湖に住みついた。「イワナを食べ過ぎると竜になる」という言い伝えを盛岡のCyg art galleryでスタッフのHさんに聞いた。その時は分からなかったが、八郎太郎の物語に由来することを後から類推した。
 十和田信仰は盛岡と関わりが深い。初代盛岡藩主である南部利直は、盛岡城城下町建設の際に北部丘陵に寺社を集めた。筆頭が藩累代の祈祷寺の永福寺である。永福寺はかつて青森の五戸村にあり、後に盛岡に移転した歴史を持つ。先の南祖坊は青森出身で、五戸村にあった時の永福寺で修行したという。盛岡に移った永福寺は十和田参りの拠点として重要な役割を担っていた。
 十和田信仰は水の神様として、あたかも水が流れるように各地に広まった。盛岡や津軽など東北各地で水の神様として信仰された。さらには青森と文化的な関連性が多く見られる北海道の南部にも、十和田の名を持つ神社がいくつか存在する。

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 信仰や民話、共同体や家族の営み、人と人、人と自然との関わりのひとつひとつが世界を構成する。自然への敬いや祈り、土地の出来事の記録は未来への眼差しとなる。小さな流れが交わり合い、やがて大海に注ぐ。
 龍の衣と書く ”襲” という字は、死者に着せる上着に由来する。死に向かって人は生きる。滅して龍をまとい、山を登る。わたしの言葉、亡きものへの記憶が山の風景となる。水が循環するように、言葉は龍をまとって山を登り、過去から未来への回路となって世界を潤す。

※参考文献
・尾樽部圭介「霊山十和田と十和田信仰」2011弘前大学学術情報リポジトリ
https://hirosaki.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=3263&file_id=20&file_no=1


・小舘 衷三「津軽の民間信仰」1980 教育社歴史新書

・十和田神社 - 歴史・伝説 | 十和田湖国立公園協会
https://towadako.or.jp/rekishi-densetsu/towada-jinja/

・ブログ – 宝照山 普賢院 | 青森県八戸市 真言宗豊山派
https://fugenin643.com/blog/

展示記録(2022/12/18追記)

無事に会期を終えることができました。

展示にお越しいただいた皆様、会場でお話しさせていただいた方々、トークにお越しいただいた皆様、展示を気にかけていただいた皆様、ありがとうございます。取材や撮影、展示などに協力していただいた皆様、心よりありがとうございます。

Cyg art Galleryの皆さん、キュレーター・ギャラリストの佐藤拓実さんをはじめスタッフの皆さんには大変お力添えいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

展示の記録写真を少し掲載いたします。